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夏の前の雨の匂い

5/24


僕の狭いアパートには猫がいて、晴れの日は窓辺でずっと眠っているし、雨の日には猫用ベッドでずっと眠っていて、夜も僕と一緒に眠っている。彼は時々夢を見ていて、耳や鼻がピクピクしたと思ったら手足をバタバタやる。何か追いかけているんだと思う。
4、5年くらい前、僕は生きてるのに結構嫌気がさしていて、別に死ぬほどのもんでもなかったけれど、よくある大ニ病ってやつだと思う。
とにかく参っていたのは研究室で、僕は先生が大好きだったけれど門下生の子たちとどうもうまくやれなかった。うまくやれなかったことを気にしないのがまずかった。僕は自惚れや下手な勤勉さのしっぺ返しをくらい逃亡し、そのうち世の中の大体がくだらなく、自分のやることがつまらなく、気が滅入っていった。
だから考えなしに猫を拾ってしまった。手のひらサイズの、毛が生えたての茶トラだった。いつもぷるぷる震えていて妙だった。
拾ってきて2日くらいは名前がなかった。けれど彼はちゃんとトイレにおしっこをし、皿から餌を食べ、それ以外は一日中テレビ台の下に潜りこんで、前を通る度に僕の足を攻撃した。
名前はくじらとかピカソとか色々考えたけれど文豪の名前にした。
彼はすぐに自分の名前を覚え、僕の肩によじ登るようになった。肩に乗っている時は僕の皮膚に爪がめり込んでいるので、揺すっても落ちたりしなかった。そのまま立ち上がって自販機にコーラを買いに行ったことがあるくらいだ。
ところで僕には仕送りなんかなかったので、とても貧乏だった。当時映画館でやっていたアルバイトを増やしてもらって、近所の薬局で猫の飯を買った。
彼は日増しにデカくなり、すぐに成猫になってしまった。
毛並みが綺麗で、乱暴者で、顔が細く鼻が小さい、結構なイケメンだ。今なら彼の名前をダルジェロにしたと思う。だけど会った時は本当にただのぷるぷるしてる毛玉だったんだ。

僕の家にいる猫は、飯欲しさに僕の足に擦り寄ったりしない。眠ってる時に触るとめちゃくちゃ怒る。普通に噛む。可愛げのないタイプの猫だ。うんこは臭い。
でも時々、窓辺で眠ってる猫を神様と見間違う。

今もうつ伏せの僕の肩にいる。もう大きいので、僕の肩幅いっぱいに寝そべっている。

僕は猫のおかげとは言わないけれど、あの頃と比べたら何もかもがどうでもいいわけじゃなくなった。どうでもよくないことをいくつか手に入れた。だけどもし聖人君子の良い大富豪が現れて、お宅の猫ちゃんにもっと良いお家でもっと良いご飯をあげるので私にくださいと言われたら、あげると思う。彼もそれを普通に喜ぶと思う。

だけど僕たちは今もこうしてくっついて、お互い素っ気のない態度で過ごしている。
僕は時々猫を神様と見間違う。