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僕の未来に期待していた母には、悪いことをした。ひしゃげて薄汚れた文庫本の切れ端を握りしめ「これが私だ」と戯言のように繰り返す人生を、勝手に生きてけ。それしかないんだろ、お前には。何が自分だ、版画じゃねえか。と、鏡に言う。
昔友だちに、ラーメン屋で「自業自得」と言われたことを思い出す。確かにそうだ。誰のせいでもない。女が嫌ならやめればいい。奴隷が嫌なら戦えばいい。それを成し遂げるほどの、血が吹き出るほどの憧れがない。何もない。
自分の尻拭いをするために生活をしている。
ずっと車酔いをしているように気分が悪く、いつも背中が痛い。これもなにもかも自業自得だ。それでもまだ洗濯や炊事が出来るんだから、逞しい女だ。父方の祖母に似た。
土臭いごつごつした手と綺麗なんて言われたことのないような女。こき使われて家族を愛しているがさつで学のない女。僕は年中彼女の背中にしがみついていた。好きだ。
飼っている猫がもっと走り回れるような広い部屋に越そう。猫はひとつも悪くないんだから。
猫は訳もわからず拾われてうちに来たのだから、自業自得でないのだから、せめて猫だけにはなんの我慢もなく生活をさせてやりたい。