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オーケー、ボーイズ&ガールズ

8/15

 

ここのところ嘘ばっか書いてたので今日は事実だけを書く試みをしようと思う。

先日、飼っている雄猫を何の気なしに散歩へ出したら、運悪く近所に住む雌の野良猫と鉢合わせてしまった。彼女はスカした風で我が愛猫に一瞥をくれただけだったが、こっちの雄猫は雌の猫なんか生まれて初めて見たものだから、我を忘れてひどく興奮し始めた。

もう、それから3日も経つが彼は一日中けたたましく鳴き喚いて、おそらく彼女を呼んでいるんだろうけれど、僕は近所の人間がうるさい猫と僕を殺しにくるんじゃないかと肝をつぶしている。

興奮し続ける雄猫をなだめる方法はこの世にはない。明日、病院へ行って去勢手術を受ける算段をつけようと思う。

しかしながらその間まで鳴かせっぱなしではいよいよ隣人がノイローゼになりかねないので、僕は猫がけたたましい鳴声をあげるたびに抱きかかえてあやし、それもいきなり飛び出すものだから腕にいくつも傷を作った。

その他にも、風呂のシャワーを出しっ放しにしたり、良いステレオで環境音を聞かせてやったらしている。効果はあるが持って20分というところだ。僕は昼夜問わずそんなことばかり繰り返していてうまく眠れないものだから、身体をむくませながらイラついている。

どうしようもないときは猫用キャリーバッグに彼を詰め込んで、落ち着くまで布を被せている。それでも入れっぱなしにはできないから、これも持って2.30分という感じ。

彼は今5歳くらい(拾ったのでいつ生まれたかは知らない)だから、人間で言えばそろそろ結婚しても良い歳だ。成人したてくらいか?

うるさくて乱暴な猫に腹を立てても仕方がないし、そもそも生き物の欲情という全く正常な行為に僕が太刀打ちできるはずもなく、去勢という理に反したことでしか共生出来ないことを申し訳なく思う。出来れば、したくなかったけれど、あの時彼女に出会わなければこうもならなかったとは思うけれど…今も彼を抱きかかえながら日記を書いている。

しかしやはり、野生で生きてきた雌猫は貫禄がある。贔屓目もあるけれどウチの猫はなかなか、生命力に溢れているし、毛並みもいいし、何より男前である。けれど彼女にとってみれば、外の世界をこれっぽっちも知らない、温室育ちのモヤシ猫に違いないのだ。モヤシ猫。

だが、そのモヤシ猫も彼女と出会ってからというもの、水もあまり怖がらなくなったし、僕の言うこともサッパリ聞かなくなったし、マタタビにさえ興味を示さなくなった。恋は人間だけでなくモヤシ猫さえも変えてしまう魔法らしい。恋をした彼にはもうすっかり参ってしまったけれど、ほんと、降参、けれど、僕たちの理性は素晴らしいものだなと文化的な人間である僕はひとり深く頷いている。

問題は、モヤシ猫が本当に彼女だけに恋をしたのか、それとも始めに目に付いたのが彼女だったから恋をしたのか、ということだ。おそらく前者だとは思うけれど、そうだとしたらまた次にすれ違った雌猫に彼は襲いかかるつもりだろうか?僕が育てたのだから、せめて一途であってほしいと人間の僕は思う。もちろんそんなことはモヤシ猫には関係のない話である。モヤシ猫どころか、仮に僕に人間の子どもがいたとしても、彼あるいは彼女には関係のない話である。やりきれないが、僕じゃないんだから仕方ない。

そういえば、今思い出したけれど、大学に通っていたころガラス張りの研究室で、僕がピシピシ音を立てながら忍び足で歩いていると不意に、ニキビ面の女の子が「あなたってそうやって、人は人って割り切り過ぎるから教師に向いてないと思うの」と言われたことがあった。僕は怯えて、「そうか、大丈夫、僕は先生にはなれないから…」と言い訳をして逃げ帰った。その子からは前にも協調性がないと叱られていたので、僕のそういう性質か、あるいは僕自身がよほど気に食わなかったんだと思う。そして僕はやはりそれを仕方ないことだと思っていた。そういうとこだよな…。

でも見てみなよこの猫。協調性どころか道徳心もないぜ。猫だもんな!当たり前か!ウケる

それと僕と暮らすモヤシ猫は、僕に人間的優しさを与えてくれたことは一度もない。それどころか猫的優しさを与えてくれたこともない。猫的優しさとは多分グルーミングとかだろうと思う。僕は彼を拾ってからほとんど下人のように彼の世話をしているからね…。血縁でも雇主でもないのに不思議な話だけれど。猫だからというだけで、かわいい、申し訳ない、という気持ちで甲斐甲斐しく世話をするものだからモヤシ猫の方もいよいよつけあがったのだろうか。つけあがるなんていうのは人間だけの話なんだろうか。それで飽き足らず僕はキャットタワーの購入を考えている。新しい爪研ぎも買おうとしている。野生で生きられず果てには去勢させられるんだ、それくらいじゃ足りないだろうがせめてもの罪償い…もちろん猫には関係ない話である。全ては僕の傲慢だ。このうるさいホカホカの生き物の一生を、僕の好きにするっていうんだからおこがましいよな。拾わない方が良かっただろうか。カラスにつつかれて死んだ方が…こればかりは考えても分からない。でも多分そうなんだろう。

参ったよほんとに。でもかわいい。とてもかわいい。腕の傷は痛いが、目に入れるのは痛くない。サッパリ痛くない。