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オーケー、ボーイズ&ガールズ

12/5 It’s Only A Paper Moon

 

 

生まれた町へ帰るときは、国道13号線に乗る。もちろん出るときもだ。

僕の通った高校はその国道沿いにあり、道路に沿うように長い廊下で図書室と音楽室を繋いでいる。僕は何度も、ひとりでその廊下を行き来した。何度も。

この町を出てどこかへ行きたいときは必ず13号線に乗る。13号線に乗れば、この町ではないどこかへ行ける。この町ではないどこかへ行けば、何もかもが変わり、僕は自由になると思っていた。ひとりきりで長い廊下を往復するだけの人生は終わるはずだ。そして新しい、素晴らしい生活が始まるはずだ!

 

ところで海を埋め立てて作ったあのくだらない町の名前は13号地というらしい。行ったことはないけれど、それだけで嘘っぱちのハリボテなんじゃないかという気がしてくる。

そして13号線に乗って飛び出して行き着いた町も、実はそうなんじゃないかと思う。

僕は君とずっと、ペーパームーンをバックにデタラメなステップを踏んでいる。

『あなたの愛がなければ、こんなのはから騒ぎのパレードだわ』

僕は13号線を行き来した。何度も。13号地から13号地へ。何度も。

変わるつもりはないが、変わらずにいられないので変わった。立葵の群生していた線路沿いには綺麗にアスファルトが敷かれた。僕は使った食器をすぐに洗うようになり、君は夜眠らなくなった。

何かになりたかったわけじゃない。ただ鬱屈した終わりのない日々に辟易しただけ。窓の外の笑い声が鬱陶しくなっただけ。ぬるいお湯にのぼせただけ。隙間風が寒かっただけ。新しい靴を買っただけ。それだけ。

 

もうすぐ10年になる。10年。とても長い時間に思える。覚えている瞬間はいくつもない。つなぎ合わせても1週間にも満たないかもしれない。けれどとにかく、生まれた町から出てきて10年経つ。

夏の始まりの夜にバーのバイトへ出かける。ぬるい風、イヤホンからフィッシュマンズ、蒸し暑いキッチンでつまみ食いしたオリーブ。

町中の電気が消えた夜の星、誰もいない大学の中庭、君の虹色のアパート。喫茶店

 

僕は実は、いつだってずっとこのままがいいと思っている。今は今で、ずっとこのままがいい。だけどどうしてか変わらないでいられない。僕は未だに、アパートからどこへ行けば13号線に突き当たるのか考えている。どこへ行っても13号地。死の地平線。あれもつくりもの?

なんだっていいさ、僕には誰かと抱き合える身体がある。確かにある。