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オーケー、ボーイズ&ガールズ

5/26

 

かなり参っていた。昨日は自転車を漕ぐのも億劫で、15分前に家を出たにもかかわらず遅刻しそうになった。土から立ち上る蒸気は夏の匂いをはらんでいて胸が痛んだ。

僕は実は君のことなど、君たちのことなどちっとも好きじゃない。君と同じようにね。

 

うまく話せれば、うまく話せれば?何を?

 

白い砂浜に時々、細長い巻貝が落ちてるじゃない、あれには死んだ人の声が入ってるのよ。

昔いとこがそんなことを言って、僕は毎年海に行くたびに、巻貝に怯えて遊ぶ羽目になった。

今じゃ僕の全てがそれだ。

 

スズランには毒がある。教えてくれたのは母だ。母は花の名前は何でも知っている。僕に英語で書かれた花の本もくれた。Forget me not.

 

違うな、わかり合いたいわけじゃない。話したいことがあるわけじゃないけど、僕は単純に君と話したい。それだけなんだ。それだけ…

 

僕の決意が消えないうちにギターが鳴ればいいな。いつも、昔の友だちや夏やサワラのバジルソースソテーが乾いた心に油を垂らして、僕は満ち足りたような気分になってしまう。雨上がりの涼しい風が、高架下を吹き抜けて僕の頰に、どこからかこぼれ落ちた雫を落とした時、思い出すことのいくつかが本当ならいいと思う。

君に話す価値のあることなんかもしかして、ひとつもないかもしれない。

いつもユーミンのラジオの話や、キャロル&チューズデーの話や、夢の話をして、もし、もしもそれだけで僕が充分なら、こんな日記を書いたり、曲を作ったりすることなんかないわけだけれど。

 

本当は、君の隣にかわいい男の子が座って、秘密の話をしていたなら僕はまだ、嫉妬で嫌な気分になることが出来るし、嫉妬してごめんと君に謝ることだって出来るんだ。それくらいの人間味をまだ持ち合わせているんだ。正常なコミュニケーションが出来るはず。

乾いた土だって、深くまで掘ったなら水くらい湧くさ。知らないの。ただみんな井戸を掘る機械に金がかかるので、持っていないだけ。そしてそれが重要な問題ってだけ。

 

優しく出来るんだぜ。何も期待しないでさ。僕は別に優しい自分が好きで優しくしてるわけじゃないんだ、ただ、ただね。君たちが海で遊ぶ時、怖がって欲しくないんだ…ただ気にしないで、笑って、拾って、忘れて失くして、それでいいの…傲慢か。傲慢だ…でも僕も人間だから、そういう我欲もある。嫌だね…

 

早く歳をとって死んじまいたいな。死んじまったら関係ないんだから。僕には僕のことなんかさ。億劫だよ。僕には僕の存在が億劫なんだ。

ただあの、火星の井戸を吹き抜ける風みたいに、姿形もなくなって、当たり障りのない意味ありげな存在の香りだけになりたいな。意味わかる?わかんなくても別にいいんだけど。

 

随分前にミーちゃんにもらったかわいいヘアピンをどこかへやってしまった。僕にはかわいすぎて身につけることはなかったけれど、やはりかわいかったので悲しい。僕はおかしいことを言っていないよね?

だからさ、さよならのあとに、僕の美しかった心を鼻で笑うようなことは、絶対にしないで…