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オーケー、ボーイズ&ガールズ

12/22

 

僕が牛乳を飲んでいると飼い猫が物欲しそうな顔をして寄ってくるので、水で薄めた牛乳をあげた。二舐めして、もうたくさんとでも言いたげに口の周りを舐め、毛づくろいをした。

そんなことばかりだ。

 

俺は世の中のことを大体わかっているというような顔の毛並みのいい馬が、ロバを追い越す時、小気味のよい蹄の音と湿った鼻息でそれを派手に演出してみせている。みんな恥ずかしくて黙っているのに。ロバは眠っているし。だけど、本に書いてあったよ。ロバが眠っているかどうかを見分けられるのは黒人だけだって。

そんなことばかり。

 

自分たちのくだらない自己顕示で、あの旅人の上着を脱がせようなんて、本当にどうかしてる。あのお話の中じゃ北風と太陽もメルドーだよ。どっちもおんなじじゃないか。

僕は最近テレビニュースを見る。そしてこの星に心底うんざりしている。原始的な宇宙人のくだらないやっかみあいばかりに、大層なタイトルをつけて、小さな鞄の中身を投げ合ってる。小学生草野球大会の方がまだまともにやってるように思う。とはいえ僕も、噛み合わせの悪い顎で芋粥を飲み下している。どっちもおんなじ。おんなじさ。

そんなことばかり。

 

太宰治の小説で何が一番好きなの?と、居酒屋で働いていた時に聞かれたことがあった。僕は斜陽が好きだと答えて、かさぶたみたいな脳みその中年男に感心されたけれどあれは嘘。嫌な奴にはいっぱい嘘をついても良心が痛まないんだ。ハエタタキなんて道具がこの世の中にある理由と一緒だよ。ナナホシテントウタタキはないんだから。主観的な選択で僕たちはあらゆる存在を分けることが出来る。そしてそれを正当化することも出来る。でも僕のばあちゃんはどんな虫だってハエ叩きで叩くよ。そんなの、僕にだけ効くおまじないに過ぎないんだ。でも僕にだけ効いてりゃまだ救いがあるね…

 

イカレたババアが入店して来て、精神病棟にいた頃の話をし始める。息子に会えなくて寂しかった。雨が降ると地下の排水溝から水が溢れて来て足首まで浸かって寒かった。櫛さえ持たせてもらえずに髪をとかすこともかなわなかった。街の様子がすっかり変わってしまって、ここも昔は店なんかなかった。角を曲がったところに病院があったはずだけど無くなった。何にもなくなった。すっかり変わっちゃったわね…

櫛さえあれば彼女は救われたのか。僕は翌朝念入りに髪をとかして家を出たが、あいにく風の強い日だった。

そんなことばかりだ。

 

言っておくけど僕はそういうのは嫌いだ。僕が何も嫌わないと思ったら大間違いだ。僕は嫌ってる。嫌悪している。生活の中に溢れているささやかな悪意、そして虚飾とあらゆるナンセンス。しかし僕は世の中という万華鏡の中で首の裏に気にくわないホクロを発見する。同じように綺麗な形の背中を確認する。一つの身体にある。物事という破片のそれぞれに僕が映っている。映り方が違うだけ。そんなことばかりだ。