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オーケー、ボーイズ&ガールズ

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あれが桜の木、日本人は桜好きでしょ?

空港を出てすぐ、スモモみたいな色の小さな花をたくさんつけた木を指差してヴァネッサはそう言ったけど、どう見ても桜じゃなかった。私の知ってる桜はもっと薄くて淡い色の、形のきれいな花をつける木だった。高校のランチがまずくて、リンゴばかり食べていた。ヴァネッサは「君はリンゴが好きなんだね」と言ったがこれも私の知っているリンゴじゃなかった。こんなに小さくて軽くてスナック菓子みたいなものがリンゴ?

綺麗に刈られた芝に毎朝スプリンクラーで水が撒かれた。私たちは彼女の父親の都合で朝7時には高校に着いてしまっていた。やることがなくて中庭を歩いていると、スニーカーが湿った。

帰りの車内で、何本ものヤシの木を見送った。ラブホテルの壁紙みたいにわざとらしいネイビーと、ピンクと、オレンジの空だった。

家もそうだった。ドールハウスみたいだった。壁を叩くと軽やかに響く。内壁と外壁の間に猫が住んでいた。ここは暑くも寒くもないからきっと問題ないんだろう。隣の家のベランダには虹色のパラソルが立ててあって、大きな窓から螺旋階段が見えた。思いつきで、紙粘土で作ったような家々だった。

 

時々、あの頃の、あの大掛かりな嘘のような世界を思い出す。

その度に頭の中でペーパームーンが鳴る。

愛があればいいのか?

そりゃそうかもしれない。愛があればハリボテの町でも、生きてる心地がするかもしれない。