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オーケー、ボーイズ&ガールズ

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読んでくれてありがとう。今日は野良猫をよく見かける日だった。君はどう。悪くないといいなと思うよ。よくなくってもさ。

僕はこの頃無性に腹が減って、デブの金魚みたいに延々と飯を食う日と、まるで死にかけの子ヤギみたいに水さえ飲むのが億劫な日を交互に過ごしている。頭がおかしくなっちゃったんじゃないかと心配していた最中会社の健康診断があって、結果はめでたく異常なしだった。異常なし。こちらは異常なし、ドウゾ。

 

僕が勉強を始めたのは中学2年生の頃だけど、それまでは下から5本指に入るくらいの成績だった。でも父は学期末には必ず、僕の皆勤賞を褒めた。健康が一番。健康があればなんでも出来る。皆勤賞なんて大したもんだ。偉いぞ。

僕がくだらない理由で勉強に一生懸命になって良い成績を取った時も、相変わらず父は皆勤賞を褒めた。それ以外褒めるべきものなどこの世にないといった感じだった。

僕の年の離れた弟は身体が弱かったから、そんな父を、あるいは僕を、どんな目で見ていたかわからない。わからないがなぜか、彼はとても臆病で心の優しい子に育った。しかしながら彼の鍵付きの宝箱の中には薄汚れた、髪の一本もない、裸のリカちゃん人形が入っていた。父の純粋な喜びのしわ寄せを、彼女が一身に引き受けたようだ。こちらは異常なし、ドウゾ。

 

今日店の外に、肌の白くて明るく染めた髪をくるくる巻いた、赤い唇の女の子がいて、僕は彼女がきっと桃とツツジの花の香りを混ぜたような匂いがするんだろうなと想像していた。あんなに可愛い洋服を着て、爪の先まで瑞々しく、君って君のために結局、まるで、まるで

ところでイチジクって好き?僕割と好きでさ、近所においしいイチジクタルトを焼くケーキ屋があるんだけどどう?買ってくるからウチで一緒に食べようよ。最近トコニワのシロップを買ったんだけどそれもおいしくてさ、ソーダで割ると不思議な味だよ。どうかな。

 

昔から爪を噛む癖がある。いい歳になっても家で気を抜いていると噛んでいる。噛んだ爪を吐き出すと、なぜか飼い猫が食いたがる。おいおいお前おかしいと思ってたけど、流石におかしいだろ。そういえばお前もよく爪噛んでるな。そうか僕は猫だったのか。あるいは飼い猫が人間だったのか?そうか僕は蝶だったのか、いや虎か?はたまた毒虫、別になんだっていいけどさ、背中から一本だけ、白くて長い毛が生えてるんだよ。ほら、なにこれ?抜いたら死んだりしてね。君にだけ教えとくよ。もし僕の顔を忘れたら背中の、左肩の方を探して。それを頼りに、僕を見つけてね。

 

昔先生が教えてくれた。先生は長江を、ボロの服を着た船乗り一人と木の船で下ったことがある。川は海のように広くて、まるで終わりが見えず、波もなく、どんなに下っても時間が止まったように静かで穏やかだった。時折船乗りが小さな鼻歌を歌い、先生はそれを頼りに空気に溶ける身体をなんとか保った。まるで何もかもがどうでもよくなり、このまま日の沈まない永遠に身を任せていても良いような気分になった。そう言っていた。これから迎える1日が全て、そんなふうに永遠なら、僕たちはおおよそ不老不死だね。君と春の日差しの中桃の缶詰を食べたり、窓際で猫とウトウトしたり、誰も死なない映画を何本も見たり。素敵じゃないか。どうしてできないんだろう?僕は長江へ行きたい。何もかもすっかりどうでもよくなったら、どんなに気持ちがいいだろう。